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しんらん

親鸞

吉川 英治

「名古屋新聞」1934(昭和9)年9月28日~1935(昭和10)年8月9日、1936(昭和11)年1月19日~8月<br>「台湾日日新報 夕刊」1934(昭和9)年9月30日~1935(昭和10)年8月12日、1936(昭和11)年1月7日~8月4日<br>「京城日報」1934(昭和9)年9月~1935(昭和10)年8月、1936(昭和11)年1月10日~8月<br>「神戸新聞」1936(昭和11)年1月5日~8月6日<br>「福日新聞」「北海タイムス」1935(昭和10)年9月~1936(昭和11)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 566,138 字 · 1127 页

青空文庫

「一乗院が帰山したというが、いつごろじゃ」

「もう、十日ほど前にもなろう、例の性善坊は、それよりもずっと前に戻っていたが、範宴のすがたが見えたは、ついこのごろらしい」

「ちょうど、三年ぶりかの」

「そうさ。範宴が下山たのは、先一昨年の冬だったから……」

「だいぶ修行もつんだであろう」

「なあに、奈良は女の都だ、若い範宴が何を修行してきたかわかるものか」

「それは、貴僧たちのことだ。範宴がおそろしい信念で勉学しているということは、いつか山へ来た宇治の客僧からも聞いたし、麓でもだいぶうわさが高い」一人が口をきわめて範宴の学才とその後の真摯な態度を賞めたたえると、怠惰な者の常として、かるい嫉妬をたたえた顔がちょっと白けてみえた。

「その範宴が、明日から横川の禿谷で、講義をひらくということだが――」と、思いだしたようにいうと、

「そうそう、小止観と、往生要集を講義するそうだが、まだ二十二、三の若年者が、山の大徳や碩学をまえにおいて、どんなことをしゃべるか、聞きものだて」

「碩学たちも意地がわるい、ぜひにと、懇望しておいて、実は、あげ足をとって、つッ込もうという肚じゃないかな?」