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しんらん

親鸞

吉川 英治

「名古屋新聞」1934(昭和9)年9月28日~1935(昭和10)年8月9日、1936(昭和11)年1月19日~8月<br>「台湾日日新報 夕刊」1934(昭和9)年9月30日~1935(昭和10)年8月12日、1936(昭和11)年1月7日~8月4日<br>「京城日報」1934(昭和9)年9月~1935(昭和10)年8月、1936(昭和11)年1月10日~8月<br>「神戸新聞」1936(昭和11)年1月5日~8月6日<br>「福日新聞」「北海タイムス」1935(昭和10)年9月~1936(昭和11)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 566,138 字 · 1127 页

青空文庫

三

輦から、眼もあやなばかり、黄金の太刀や、むらさきの大口袴や、ぴかぴかする沓や、ろうやかな麗人がこぼれて薔薇園の苑と亭にあふれているのが、五条橋から眺められたが、

(羨ましい)とは、感じもしなかったし、なおのこと、(不都合な平家)などとは、思いもしなかった。

平家を憎悪する気力すらないのが、今の藤原氏であり、源氏の果てであった。

「オ。……ここじゃ」いつか、粟田口へ、二人は来ていた。十禅師の辻まで来ると、範綱は、足をとめて、

「弟、御門外で、待っているか、それとも入るか」と宗業に訊いた。

三

「私は、外で待っていましょう」と、宗業はいった。

「そうか」範綱は、ちょっと、考えていたが、眼の前の、青蓮院の小門を片手で押しながら、

「じゃあ、今日は、わし一人で、ご拝謁をしてこよう。すぐに、戻ってくるからな」と、中へ隠れた。

宗業は、塀の外をしばらくぶらぶらしていたが、やがて、鍛冶ヶ池のそばへ行って、雑草の中の石に、腰をおろし、鮒かなにか、水面をさわがしている魚紋に見恍れていた。時々、顔を上げて、

(まだか)というように、青蓮院の方を、振向いた。

そこから見ると、青蓮院の長い土塀と、土塀の中の鬱蒼とした樹林は、一城ほどもあって、どこに伽藍があるのか、どこに人間が住んでいるのか、わからなかった。