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しんらん
親鸞
吉川 英治
「名古屋新聞」1934(昭和9)年9月28日~1935(昭和10)年8月9日、1936(昭和11)年1月19日~8月<br>「台湾日日新報 夕刊」1934(昭和9)年9月30日~1935(昭和10)年8月12日、1936(昭和11)年1月7日~8月4日<br>「京城日報」1934(昭和9)年9月~1935(昭和10)年8月、1936(昭和11)年1月10日~8月<br>「神戸新聞」1936(昭和11)年1月5日~8月6日<br>「福日新聞」「北海タイムス」1935(昭和10)年9月~1936(昭和11)年8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 566,138 字 · 1127 页
十一
何とぞ、煌々たる天判と、諸卿の御明断とを、仰ぎあげまする」といって、ことばを終った。
僧である以上、さだめし難かしい仏典をひきだしたり、口賢い法語や呪文で誤魔化すだろうと心がまえしていた人々は、彼の人間的な話に、
(正直な答弁である)と感じたらしく、その間に、口をさし挟む者がなかったばかりでなく、誰にもよく、僧正の人格というものが得心された。
主上は、御簾のうちへ、関白基通を召されて、何か仰せられている御様子であった。
基通は、退がって、
「範宴に、料紙と硯――を」と、側の者へいいつけた。
料紙台に、硯と、そして、主上からの御題が載って、範宴のまえに置かれた。
十一
御題を詠じてさしだすと、こんどは、堂上たちが、
「この題で、一首」と、わざと困らすような難題を、次々にだした。
範宴は、筆を下に擱かなかった。公卿たちは、
「ほ……」と、その一首一首に、驚嘆をもらして、
「なるほど、歌才があれば、僧侶でも、どんなことでも自在に詠まれるものらしい」と、今さららしく、うなずいている者もあった。
「慈円は、よい弟子を持たれたものじゃ」範宴に対する諸卿の眼は、急にものやわらかになり、そして、慈円の咎めも、不問になった。