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しんらん

親鸞

吉川 英治

「名古屋新聞」1934(昭和9)年9月28日~1935(昭和10)年8月9日、1936(昭和11)年1月19日~8月<br>「台湾日日新報 夕刊」1934(昭和9)年9月30日~1935(昭和10)年8月12日、1936(昭和11)年1月7日~8月4日<br>「京城日報」1934(昭和9)年9月~1935(昭和10)年8月、1936(昭和11)年1月10日~8月<br>「神戸新聞」1936(昭和11)年1月5日~8月6日<br>「福日新聞」「北海タイムス」1935(昭和10)年9月~1936(昭和11)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 566,138 字 · 1127 页

青空文庫

残り惜しげな顔もある。また、なお何か、質疑をしている老人もあるし、

「ふん……」せせら笑って去る他宗の法師もあったりしたが、多くは、わらわらと、木の葉舞して、ふもとへ散った。

範綱と、宗業とが、そこへ降りてきたころには、六波羅大路から、志賀山道への並木へかけて、

「わあっ――」

「あれじゃ」人の波であった。埃がひどい。その中を、

「寄るなっ」

「凡下ども!」竹や、棒を持ったわらじばきの役人が、汗によごれながら、群衆を、叱ってゆく。

見ると――人間のつなみに押しもまれながら、一台の檻車が、ぐわらぐわらと窪の多い道を揺られてゆく。

曳くのは、まだらの牛、護るのは、眼をひからした刑吏と雑兵であった。

「文覚文覚」追っても、叱っても、群衆はついてゆくのである。その埃と、潮に巻きこまれて、範綱、宗業のふたりも、いつか、檻車のまぢかに押されて、共にあるいている。

丸太か石材でも運ぶような、ふつうの牛車のうえに、四方尺角ばかりの太柱をたて、あらい格子組に木材を横たえて、そのなかに、腕をしばられた文覚は、見世物の熊のように、乗せられているのだった。

よろめくので、彼は、脚をふんばって、突っ立っていた。