轻松读懂日语经典作品
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しんらん
親鸞
吉川 英治
「名古屋新聞」1934(昭和9)年9月28日~1935(昭和10)年8月9日、1936(昭和11)年1月19日~8月<br>「台湾日日新報 夕刊」1934(昭和9)年9月30日~1935(昭和10)年8月12日、1936(昭和11)年1月7日~8月4日<br>「京城日報」1934(昭和9)年9月~1935(昭和10)年8月、1936(昭和11)年1月10日~8月<br>「神戸新聞」1936(昭和11)年1月5日~8月6日<br>「福日新聞」「北海タイムス」1935(昭和10)年9月~1936(昭和11)年8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 566,138 字 · 1127 页
このまま空しく帰るとしたら姫の泣き沈む姿を見なければならない。あの傷々しい失意の眸が涙でいっぱいになって物も得いわずに打ち伏すかと思うと、万野は帰るにも帰れない心地がするのだった。
彼女は半刻も立ちすくんでいた。夜露が被衣をじっとりと寒くしてくる。もう人を憚る自制心すらなくなった。今度は、廂を目がけて石を抛った。つづけざまに幾つか投げた。
すると、築地の裏戸がそっと鳴った。紛れもない人影である。万野は、自分の恋人でも見たように走り寄って、
「範宴さま」恨みで胸がつまった。
その人は黒い布を頭からかむっていた、唖のように物をいわない、絶えずなにものかに趁われるように、またなにものかを趁うように、足を早めて彼女の先を歩いてゆく。
三
暁を惜しむまで話しても語り尽きないものと人はいうけれど、二人の場合はそうでなかった。会えば相見た満足だけでいっぱいになってしまった。万野が気をきかしていなくなっても同じである。なんの話をするということもなく、もちろん燈灯をともしては館の者に気づかれる惧れがあるから、明りもない閨戸の帳を空ろにしては、蔀の下近く端居したまま夜半の冷たいものがじっとりと五つ衣の裳と法衣の袖に重たくなるのも忘れ果てて、相思の胸のときめきをお互いにただじっと聞き合っているに過ぎない二人なのであった。