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しんらん

親鸞

吉川 英治

「名古屋新聞」1934(昭和9)年9月28日~1935(昭和10)年8月9日、1936(昭和11)年1月19日~8月<br>「台湾日日新報 夕刊」1934(昭和9)年9月30日~1935(昭和10)年8月12日、1936(昭和11)年1月7日~8月4日<br>「京城日報」1934(昭和9)年9月~1935(昭和10)年8月、1936(昭和11)年1月10日~8月<br>「神戸新聞」1936(昭和11)年1月5日~8月6日<br>「福日新聞」「北海タイムス」1935(昭和10)年9月~1936(昭和11)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 566,138 字 · 1127 页

青空文庫

五

「もう明けますか。……ああそういえばすこし疲れた、わたしはこれから楽々と無我の眠りに遊べるが、人間に与えられたこの甘睡すらできずに悶々と今日の空の下に圧されて暮す人もあろう。そうだ、黒谷の法然上人の御口授を思いだした。――南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏」丘の上の破れ果てた御堂の縁に、彼が易々と木の葉虫のようにごろりと横になったころ、一方の警吏は、月輪家の裏門の戸をどんどんとたたいていた。

五

おとといも昨日もまた今日も、聖光院の人々は師の房の姿を見なかった。針ほどの光も忌むように一室へ閉じ籠ったきりの範宴は、その中から鋭い声でいったのである。

「誰もここへ参ってはならぬ。私のゆるさぬうちに入ってきてはなりません」坊官の木幡民部は捨てておかれないというように、性善坊や覚明と膝ぐみになって憂いの眉をよせ、

「医家を迎えて、診ていただいては――」と嘆息にいう。

「お怒りになろう」二人は首を振った。

「この身に、医や薬師はと、先ごろもきついお顔で仰っしゃられた。吾々には推し計られぬご気質なのじゃ、また、そのご気質でぶつかったものを解くなり頷くなり打ち砕くなりしてしまわぬうちは、よい加減にご自身をなだめて生きてはおられぬお方なのだ。