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しんらん

親鸞

吉川 英治

「名古屋新聞」1934(昭和9)年9月28日~1935(昭和10)年8月9日、1936(昭和11)年1月19日~8月<br>「台湾日日新報 夕刊」1934(昭和9)年9月30日~1935(昭和10)年8月12日、1936(昭和11)年1月7日~8月4日<br>「京城日報」1934(昭和9)年9月~1935(昭和10)年8月、1936(昭和11)年1月10日~8月<br>「神戸新聞」1936(昭和11)年1月5日~8月6日<br>「福日新聞」「北海タイムス」1935(昭和10)年9月~1936(昭和11)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 566,138 字 · 1127 页

青空文庫

彼もゆるされるならば、万野と一緒に膝をついて泣いてしまいたい。いや、死ねるものなら死んだほうがはるかによいとすら思うのであった。

「もう、お館にも、あのことが知れたのでございます。世間も薄々知ったかもわかりません。姫さまは髪を下ろしても、共にと、仰せられますし……」万野の立場は苦しいものに違いなかった。いずれやがてはと覚悟していたことが余りにはやく足もとへ迫ってきたのだ。自分の行為から起ったこの問題のために苦しんでいる姫と万野とを残して、自分のみが、山へかくれて安心が得られるものだろうか。彼の道徳は自分に対して強く責めずにいられなかった。

と、いってこの聖域へ女人を連れて上るなどということは思いもよらない望みである。叡山の高嶺はおろかなこと、この雲母坂から先は一歩でも女人の踏み入ることは許されない。帝王も犯し得ない千年来の掟として厳然たる俗界との境がここに置かれてある。

四

「姫をつれて、どうか帰ってください」自分を石の如くして、範宴はそういうよりほかなかった。頼むよりほかになかった。充分に、自己の罪と責めは感じながらもである。

しかし万野は、姫をうしろに置いて、容易にそれに従おうとはしなかった。