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しんらん

親鸞

吉川 英治

「名古屋新聞」1934(昭和9)年9月28日~1935(昭和10)年8月9日、1936(昭和11)年1月19日~8月<br>「台湾日日新報 夕刊」1934(昭和9)年9月30日~1935(昭和10)年8月12日、1936(昭和11)年1月7日~8月4日<br>「京城日報」1934(昭和9)年9月~1935(昭和10)年8月、1936(昭和11)年1月10日~8月<br>「神戸新聞」1936(昭和11)年1月5日~8月6日<br>「福日新聞」「北海タイムス」1935(昭和10)年9月~1936(昭和11)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 566,138 字 · 1127 页

青空文庫

誰が、こんなはした金を持ってこいといったか」

眼の前の物をつかんでそれへ叩きつけた。そして、おそろしく不機嫌な顔に、酒乱のような青すじを走らせて、

「やい、酒を酌げ」

「頭領、酒はもうそれだけです」

「酒もねえのか」いよいよ、苦りきって、

「なんてえ不景気なこった」と、つぶやいた。

戦がなくなってからは彼らには致命的な不況がやってきた。女をかどわかしたり民家を襲ったり、火を放けたりして、小さい仕事をしても、何十人もいる野盗の一族ではすぐ坐食してしまうのだった。それに都会の秩序がだんだんに整ってきて、六波羅の捕吏たちの追うこともきびしくなった。一頃ならば市中の塔や空寺でも堂々と住んでいられたものが、次第に洛外に追われて、その洛外にも安心しては棲めなかった。

「蜘蛛太だよ、開けてくれ」その時また、戸をたたく者があった。子分のうちの侏儒の蜘蛛太がどこからか帰ってきたのである。四郎は待ちかねていたように、

「はやく開けてやれ」といった。そして入って来た彼のすがたを見ると、

「蜘蛛か、どうだった?」

「親分、だめでした」蜘蛛太は悄れたが、

「その代りに、おもしろいことを聞き込んできましたぜ」