轻松读懂日语经典作品
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しんらん
親鸞
吉川 英治
「名古屋新聞」1934(昭和9)年9月28日~1935(昭和10)年8月9日、1936(昭和11)年1月19日~8月<br>「台湾日日新報 夕刊」1934(昭和9)年9月30日~1935(昭和10)年8月12日、1936(昭和11)年1月7日~8月4日<br>「京城日報」1934(昭和9)年9月~1935(昭和10)年8月、1936(昭和11)年1月10日~8月<br>「神戸新聞」1936(昭和11)年1月5日~8月6日<br>「福日新聞」「北海タイムス」1935(昭和10)年9月~1936(昭和11)年8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 566,138 字 · 1127 页
「よう来たのう、道にでも迷うてか、この夜更けに入って――」
「兄君……」とだけで、尋有は舌がつってしまう。何もいえないのだ。ただなつかしいのだった。
「寒かろう、それに飢じいであろう。はての……なんぞ温い食べ物でもあればよいが」
「いいえ、私は、飢じいことはありません。何もいりません。……それよりは、どこもお怪我なさいませんか」
「なんで?」
「天城四郎のために」
「…………」黙って、微笑して、範宴は顔を横に振って見せる。まるで他人事のようにである。
尋有は、兄の膝から顔を離し、兄の手をつよくつかんだ。
「ご存じですか。世間の声を、都の者の喧しい非難や論議を」
「うむ……」
「師の君の御苦境やら、また、姫のお父君でおわす月輪様の御心痛も」
「……知っておる」
「すべてをご存じですか」
「この山にいても、眼にみえる、心に聞える、身はふかく霧の扉にかくれても、心は俗界の迷路からまだ離れきらぬためにの。――そんなことではならないのだ、今のわしは、今の範宴は」
つよい語尾であった。尋有はこの期になっても屈しない兄の厳かな眉にむしろ驚くのだった。会うごとに兄の性格が高い山へ接してゆくように、深く嶮しく、そして登れば登るほど高さが仰がれてくる心地がするのである。