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しんらん

親鸞

吉川 英治

「名古屋新聞」1934(昭和9)年9月28日~1935(昭和10)年8月9日、1936(昭和11)年1月19日~8月<br>「台湾日日新報 夕刊」1934(昭和9)年9月30日~1935(昭和10)年8月12日、1936(昭和11)年1月7日~8月4日<br>「京城日報」1934(昭和9)年9月~1935(昭和10)年8月、1936(昭和11)年1月10日~8月<br>「神戸新聞」1936(昭和11)年1月5日~8月6日<br>「福日新聞」「北海タイムス」1935(昭和10)年9月~1936(昭和11)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 566,138 字 · 1127 页

青空文庫

(この人へならどんなことでもいえる)という気持がする。

同時に、範宴は、きょうまでの難路や風雪の苦行に虐まれぬいてきた自分の肉体と心が、この人の前では、あまりに甲斐なき惨憺にばかり傷ついていて、どこかに、人間として不自然な頑なな容に凝固っていることに気づいた。

「ここには、私のほか、聞いている者はありません、ご遠慮なく、いいたいことを仰っしゃってもさしつかえない」

法然もすすんで訊こうとするのである。会いがたい人に今こそ会っているのだ。範宴はそう感じると、どんな恥かしいことでも、どんな愚かなことでも、また罪悪でも、一切をここで吐いてしまおうと思った。

で、彼が縷々として話しだす事々には微塵の飾り気も偽りもなかった。二十年来の難行道の惨心は元よりのことである。現在つき当っている大きな矛盾――どうにもならない恋愛と社会、若い一身との複雑な昏迷の労れについても、自己の犯した罪業を包まず陳べて、解脱の道をたずねたのであった。

五

見栄もない、恥もない。

(この人ならでは――)と一心にすがる気もちで、少僧都の白金襴をまとう身を懺悔の涙にぬれ伏して一切を訴えていう声である。