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しんらん

親鸞

吉川 英治

「名古屋新聞」1934(昭和9)年9月28日~1935(昭和10)年8月9日、1936(昭和11)年1月19日~8月<br>「台湾日日新報 夕刊」1934(昭和9)年9月30日~1935(昭和10)年8月12日、1936(昭和11)年1月7日~8月4日<br>「京城日報」1934(昭和9)年9月~1935(昭和10)年8月、1936(昭和11)年1月10日~8月<br>「神戸新聞」1936(昭和11)年1月5日~8月6日<br>「福日新聞」「北海タイムス」1935(昭和10)年9月~1936(昭和11)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 566,138 字 · 1127 页

青空文庫

あなたの歩いてきた道は、わたくしも通ってきた道だ。風波と戦うばかりが彼岸の旅ではありません。――しかし、よくそこまでやられた。自力難行の従来の道にある人が、いちばん怠っているその自力を出すことと難行を嫌うことでした。それへあなたは真向にぶつかって行った。そして当然な矛盾につき当ったのです。けれど、今の突き当った境地こそ実に尊いものであります。誰がここ数百年の間、それへ突きあたるまでの難路を歩んだでしょうか。あなたのような人こそ、まことに法然の知己だ、法の友だ、この後とも、どんなご相談にもあずかりましょう」上人は手をのべて、範宴の手をとった。

「ありがとう存じます」範宴は、瞼をあつくした。上人のあたたかな手を感じると、勿体なさに、体がすくむのであったが、いつかは会う約束の人に会ったのである。この手は、自分が結んだのでも上人が結んだのでもない、御仏が、こうして結ばせているのであると思って、にこと笑った。上人もほほ笑んだ。

範宴の笑顔からは、ぱらぱらと涙がこぼれた。涙は、随喜の光だった。

*

半日も、上人と二人きりで話していた範宴は、やがて室を出て、禅房の入口にすがたを見せると、自分のつれてきた供の人々をそこへ呼び入れた。