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しんらん

親鸞

吉川 英治

「名古屋新聞」1934(昭和9)年9月28日~1935(昭和10)年8月9日、1936(昭和11)年1月19日~8月<br>「台湾日日新報 夕刊」1934(昭和9)年9月30日~1935(昭和10)年8月12日、1936(昭和11)年1月7日~8月4日<br>「京城日報」1934(昭和9)年9月~1935(昭和10)年8月、1936(昭和11)年1月10日~8月<br>「神戸新聞」1936(昭和11)年1月5日~8月6日<br>「福日新聞」「北海タイムス」1935(昭和10)年9月~1936(昭和11)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 566,138 字 · 1127 页

青空文庫

おのおのは帰院して、範宴遁世のよしを叡山へ伝えあげてもらいたい。なお一山の大衆には、べつに宝幢院へ宛てて、後より範宴の信じるところを認めてさし出すつもりである」そういって、傍らの室へ入ると、範宴は、白金襴の袈裟や少僧都の法服をすでに脱いでいるのである。

(真実なのだ)と思うと、覚明も性善坊も胸もとまでつきあげていた涙がいっさんに顔を濡らして、両手のうえに肩をくずしてしまった。

こうといわれたら揺るいだことのない師のことである。しかも、今の決意の眉はただ事ではない意志の表示であった。

袈裟、法衣などを、自分の手で畳んで、自分の手にのせた範宴は、再びそこへ来て性善坊へそれを渡した。見ればもう、薄ら寒い黒衣を袈けた師であった。

「では、そち達も身をいとえよ。叡山へ帰るなり、折を見て、この範宴と共に念仏門へ参るも心まかせ。永いあいだの真心の侍きは、袂を別った後も忘れはせぬ……」と、範宴は頭を下げた。

弟子たちは嗚咽を怺えきれなかった。師の脱いだ袈裟だけを乗せて、空の輦は、花のちる夕風の中を、力なく、帰って行くのだった。

吉水夜話

一

生れかわった一日ごとの新しい呼吸であった。