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しんらん

親鸞

吉川 英治

「名古屋新聞」1934(昭和9)年9月28日~1935(昭和10)年8月9日、1936(昭和11)年1月19日~8月<br>「台湾日日新報 夕刊」1934(昭和9)年9月30日~1935(昭和10)年8月12日、1936(昭和11)年1月7日~8月4日<br>「京城日報」1934(昭和9)年9月~1935(昭和10)年8月、1936(昭和11)年1月10日~8月<br>「神戸新聞」1936(昭和11)年1月5日~8月6日<br>「福日新聞」「北海タイムス」1935(昭和10)年9月~1936(昭和11)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 566,138 字 · 1127 页

青空文庫

、いわんや天台の座主として、

(よし)とも、

(よかろう)とも、いい得ることではない。けれどまた、綽空が、

(玉日姫をわたくしの妻に乞いうけたい)という率直な叫びをここでするまでには、実に、何年間の苦悩、疑問、自責、そして肉体との血みどろな闘いをもとげてきた上であって、決して、一朝一夕の思いではないことも分る。

そうした暗黒の彷徨から出離して、念仏門へ一転した綽空は、そこでも、ただ易行往生の教えだけに安んじていられなかったと見える。いや、自身がすでに信念していたある真理への「鍵」に対して、法然の教理からさらにつよい信念を加えてきて、いよいよ、

(こう行くのがほんとだ)

と、臍を固めに固めたあげくここへきたに相違ないのである。たとえ、自分が反対しようが、社会が挙げて拒もうが、彼は百難と闘っても、その誓願へまっしぐらに進むかも知れない。

――弱ったことだ。慈円は、たった一言をいうのに、こうまで深刻にためらったことはない。ものを思判する自分の脳髄が是非の識別をする力を失ってしまったのではないかと疑われるほどいつまでも考え込まずにいられなかった。

「――朝のおつとめのお邪げをいたしました。