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しんらん

親鸞

吉川 英治

「名古屋新聞」1934(昭和9)年9月28日~1935(昭和10)年8月9日、1936(昭和11)年1月19日~8月<br>「台湾日日新報 夕刊」1934(昭和9)年9月30日~1935(昭和10)年8月12日、1936(昭和11)年1月7日~8月4日<br>「京城日報」1934(昭和9)年9月~1935(昭和10)年8月、1936(昭和11)年1月10日~8月<br>「神戸新聞」1936(昭和11)年1月5日~8月6日<br>「福日新聞」「北海タイムス」1935(昭和10)年9月~1936(昭和11)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 566,138 字 · 1127 页

青空文庫

八

八

親戚という名に繋がっていても、平常はめったに顔を見せない不沙汰者までが、今夜は一堂に寄ったのである。月輪殿の一門といえば、それぞれ顕栄の地位にあるか、社会的に相当な生活をしている者ばかりで、いわゆる上流人のみの一族なので、よほどの問題でもなければ、こうして皆が集まることはなかった。

「なんの相談と思うて来たら、玉日を、綽空とやらいう念仏の一沙弥に娶わそうと仰せらるるよ。月輪殿の言葉と思うて、誰も、遠慮していわぬらしいゆえ、わしが、親戚一同にかわって、真っ先に申そうならば、もってのほかな沙汰という他はない。わしは、一門のために、こよいの話には、承服できぬ」いつも親戚評議というと、重きをなす老翁が、一同の沈黙をやぶってこう意見を述べると、その尾に従いて、

「どうものう……」と、賛意を拒む色が、誰の顔にも濃くあらわれた。

「第一、僧が妻帯するなどということは、法外もない沙汰じゃ。それへ、末姫を嫁りなどしたら、月輪の一門は、気が狂うたかとわらわれよう」

「いかに、綽空とやらの家柄がよいにせよ、秀才にせよ――」

「まして、悪い噂がある折じゃ。姫がどう望んでいようと、家名には換えられぬ、一族門葉の者が、挙げて、世間から非難されても、かまわぬという決心ならやむを得ぬが」