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しんらん
親鸞
吉川 英治
「名古屋新聞」1934(昭和9)年9月28日~1935(昭和10)年8月9日、1936(昭和11)年1月19日~8月<br>「台湾日日新報 夕刊」1934(昭和9)年9月30日~1935(昭和10)年8月12日、1936(昭和11)年1月7日~8月4日<br>「京城日報」1934(昭和9)年9月~1935(昭和10)年8月、1936(昭和11)年1月10日~8月<br>「神戸新聞」1936(昭和11)年1月5日~8月6日<br>「福日新聞」「北海タイムス」1935(昭和10)年9月~1936(昭和11)年8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 566,138 字 · 1127 页
九
西洞院の別荘へゆけば、そこにもまた、冬のままに閉した病間が、氷室のように彼を迎えた。
きょうも、その西洞院へ、姫の容態を見にゆくといって月輪を出た禅閤は、途中でなにを思いついたか、
「吉水へやれい」と、輦のうちから供の者へ向って、唐突にいいだした。
九
吉水の念仏道場は、およそ三つの房にわかれていた。二つ岩の房(中の房)――松の下の房(東の新房)――吉水の房(西の本房)の三箇所である。
上人は多く西の本房に住んでおられた。月輪殿はもう幾度かここを訪ねているので、轅をそこへ向けて、
「上人に拝謁申しあげた上、折入って、御垂示をねがいたい望みでござるが、御都合のほどはいかがでござりましょうか」と、供の者に訪れさせた。
――お目にかかろう。という上人の返辞であった。
しかし今は、随身の人々へ法話の最中であるからしばらく一室でお待ちねがいたいという取次の者の挨拶なので、月輪禅閤は、庭前に小さな滝の見える一間に入って、法話のすむのを待っていた。
春はもう去りかけている。滝つぼには落花の芥が浮いたり沈んだりしていた。どこかで、老鶯が啼きぬくのである。
「――ただ今までの法然の話にて、ほぼ、往生の要に、二つの道のあることをご会得召されたであろうと思う。