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しんらん

親鸞

吉川 英治

「名古屋新聞」1934(昭和9)年9月28日~1935(昭和10)年8月9日、1936(昭和11)年1月19日~8月<br>「台湾日日新報 夕刊」1934(昭和9)年9月30日~1935(昭和10)年8月12日、1936(昭和11)年1月7日~8月4日<br>「京城日報」1934(昭和9)年9月~1935(昭和10)年8月、1936(昭和11)年1月10日~8月<br>「神戸新聞」1936(昭和11)年1月5日~8月6日<br>「福日新聞」「北海タイムス」1935(昭和10)年9月~1936(昭和11)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 566,138 字 · 1127 页

青空文庫

十

してここに剃髪している者がかなり多くある中に源氏の大将であった熊谷次郎直実のような人物も一つ法筵の弟子として在るのであった。ことに、直実の蓮生房と、敦盛の子の盛蓮とは、仇敵の間でさえあるのに、その二人がわけても親しげにしているのを見ると、まったくこの道場こそは、呉越の人間が、前身の怨讐なく、法然のいわゆる往いて生きている人々の浄土であることが、実証されているような心地がして、はた眼にも見よいし、また、人間はこうも和楽に生活のできるものであるかと、凡の世間に馴れた眼から見ると、一種の不思議をも覚えてくるのであった。

「――お待たせいたしました。上人のご法話が終りましたゆえ、どうぞ、お居間のほうへ」

一人の弟子僧が、やがてこういって、月輪殿を、奥へ導いた。間もなく、

「失礼しました」法然のすがたが現われる。月輪殿は、

「いつもながらお健やかで――」と、慇懃なあいさつを述べ、また上人のほうからも鄭重に会釈があって、しばらくは、さりげない四方山の話に移っている。

そのうちに月輸殿は、改まった面持ちで、

「実は、今日のご法談を、よそながらうかがっておりましたが、とりわけ、今日はなにやら身に沁みる心地がいたしました。