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しんらん

親鸞

吉川 英治

「名古屋新聞」1934(昭和9)年9月28日~1935(昭和10)年8月9日、1936(昭和11)年1月19日~8月<br>「台湾日日新報 夕刊」1934(昭和9)年9月30日~1935(昭和10)年8月12日、1936(昭和11)年1月7日~8月4日<br>「京城日報」1934(昭和9)年9月~1935(昭和10)年8月、1936(昭和11)年1月10日~8月<br>「神戸新聞」1936(昭和11)年1月5日~8月6日<br>「福日新聞」「北海タイムス」1935(昭和10)年9月~1936(昭和11)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 566,138 字 · 1127 页

青空文庫

もので……。はははは、失礼なことを申しましたが……それでは進化がございません、いつまで、己が身一つ救えずに、うろうろと乞食するがやっとの行で、それでは、野良犬も修験者も、変りがないといってもよいくらいなものでございましょう」

「この、おびん頭盧めッ!」ぴゅう――と杖がとたんに唸ったと思うと、

「あっ……」と、峰阿弥は、俯つ伏した。

「生意気なっ、生意気なっ」つづけざまに、弁円は、打ちすえた。峰阿弥の抱いていた琵琶は、糸が刎ね、海老尾が折れ、胴が、砕けた。

「黒っ。――さあ寝よう」吠えたける犬を抱いて、弁円は、元の場所で眠ってしまった。

…………

白々と夜の明けてきたころだった、呼び起されて、弁円がふと眼をさますと、ゆうべの峰阿弥が、火を焚いている。恨みがましい顔もせず、にこと笑って、

「山伏どの、干飯が炊けました。味噌を舐ぶって食うと美味い、ここへ来て召食がらぬか」と、いうのである。

見れば、欠けた土鍋の下に、燻べているのは、砕かれた琵琶であった。

飯のにおいに、黒は吠える。弁円は、その首をつかまえて、

「餓鬼めっ、後で食わす、乞食法師の残りなど、食いたがるな」