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しんらん

親鸞

吉川 英治

「名古屋新聞」1934(昭和9)年9月28日~1935(昭和10)年8月9日、1936(昭和11)年1月19日~8月<br>「台湾日日新報 夕刊」1934(昭和9)年9月30日~1935(昭和10)年8月12日、1936(昭和11)年1月7日~8月4日<br>「京城日報」1934(昭和9)年9月~1935(昭和10)年8月、1936(昭和11)年1月10日~8月<br>「神戸新聞」1936(昭和11)年1月5日~8月6日<br>「福日新聞」「北海タイムス」1935(昭和10)年9月~1936(昭和11)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 566,138 字 · 1127 页

青空文庫

水車は晒布を掛けたように、氷りついて止まっていた。その小屋の廂の下に人影が屈んでいるのだ、石のうえに腰かけて。

心蓮は、眼をみはった。やはり自分と同じような貧しい法衣の旅人である。

「もし……あなたはもしや、以前綽空といわれた善信御房ではありませぬか」

「そうです」人影は、石から起って、いぶかしげに、

「そう仰っしゃるあなたは?」

「三年前に、上人からお暇を賜わって、笠置の田舎へかくれ込んだ心蓮です。――あなたとも半年ほど、吉水で共に暮したことのあるあの心蓮です」

四

「善信御房――」心蓮は、いぶかしげに、また訊ねて、

「軒からは、氷柱が下がっているし、風は吹きさらすし、さような所であなたは、何を好んで誦経しておられたのですか」

「実は、ある者の刃に趁われて、逃げてきたのです」

「逃げるならば、叡福寺の僧房へでも、おかくれになればよいのに」

「僧房を騒がすのは気の毒でしたから。――それに皆、静かに眠っているところを驚かしてはと思うて」

「なるほど」心蓮は心を衝たれたように、

「危急に迫って、自分の生命が脅かされる間際にも、あなたは、慈悲を忘れないお方とみえますな」

「――お恥しいことだ」