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しんらん

親鸞

吉川 英治

「名古屋新聞」1934(昭和9)年9月28日~1935(昭和10)年8月9日、1936(昭和11)年1月19日~8月<br>「台湾日日新報 夕刊」1934(昭和9)年9月30日~1935(昭和10)年8月12日、1936(昭和11)年1月7日~8月4日<br>「京城日報」1934(昭和9)年9月~1935(昭和10)年8月、1936(昭和11)年1月10日~8月<br>「神戸新聞」1936(昭和11)年1月5日~8月6日<br>「福日新聞」「北海タイムス」1935(昭和10)年9月~1936(昭和11)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 566,138 字 · 1127 页

青空文庫

「さよう」善信は一同のあいだへ静かに座をとって、よほど激論のあったらしい一同の熱した顔いろの跡をながめていた。湛空は、膝をつめよせ、

「たとえば、吾々は、ひとしく浄土に生きんという理想をもっている。けれど、凡夫の吾々と師の上人とは、信心の誠というものがどうしても異うはずです。――そうしてみると、われらは、いつになったら師の上人のような心境になって、真の安心が得られるだろうかと考えたくなる。――生れつきの愚鈍や凡夫では生涯かかってもついにほんとの往生極楽の味はわからずにしまうのじゃないかと思うのです。……で、議論になったわけじゃ……信仰は万人一か異のあるものか。変か不変か……問題なんです」

七

「いかがです、善信御房」

「されば」善信は、居ずまいを直し、

「私の考えを述べます」はっきり答え出したので、同席の人々は、みな善信の眉へ視線を向けた。善信の眼には、彼のここまで研きぬいてきた信心が、こって眸となっているように燿いていた。

「信心に、二つはありません。唯一なものです。人に依って、その誠にも変りがあると仰せられるのは、古い考え方です。聖道門の人たちのいった言葉が、まだあなたがたにどこかこびりついているせいでありましょう」