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しんらん

親鸞

吉川 英治

「名古屋新聞」1934(昭和9)年9月28日~1935(昭和10)年8月9日、1936(昭和11)年1月19日~8月<br>「台湾日日新報 夕刊」1934(昭和9)年9月30日~1935(昭和10)年8月12日、1936(昭和11)年1月7日~8月4日<br>「京城日報」1934(昭和9)年9月~1935(昭和10)年8月、1936(昭和11)年1月10日~8月<br>「神戸新聞」1936(昭和11)年1月5日~8月6日<br>「福日新聞」「北海タイムス」1935(昭和10)年9月~1936(昭和11)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 566,138 字 · 1127 页

青空文庫

院の吏員たちは、よけいに、方針の混乱をきたして、悲鳴をあげた。

とこうする間に、その月も越えて、十二月の上旬、後鳥羽上皇は、すでに熊野からお帰りになった。

逆鱗は申すまでもない。お留守をあずかっていた公卿輩はもちろんのこと、行幸に従いてもどった人々も、その御気色に慴伏して、

「必ずとも詮議して、日を経ぬうちに、ふたりを捕えて御所へ引き連れますれば――」と、お答えするほかなかった。

先に、告示された布令は、さらに広く諸国へまでわたった。そして恩賞にも、金銀ならば幾額、荘園なれば田何枚と、書き加えられた。

大津口の並木の辻にも、その高札をとりまいて、黒山のように人が立っていた、その中に、黙然と腕をくんでいる牢人ていの男があった。

「――おい、何を見ている?」ひとりの山伏が、その後ろから肩をたたいた。牢人ていの男は、かぶっていた笠をくるりと振向けて、

「や、播磨房」笠の下に、笑う歯が見えた。

二

「しばらくじゃないか」牢人ていの男は、天城四郎であった。呼びかけられた山伏の播磨房弁円に、肩を寄り添えて歩み出しながら、

「どうした、その後は?」

「どうもこうもないさ。相かわらず飄々たる行者の道をさまよっている」