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しんらん

親鸞

吉川 英治

「名古屋新聞」1934(昭和9)年9月28日~1935(昭和10)年8月9日、1936(昭和11)年1月19日~8月<br>「台湾日日新報 夕刊」1934(昭和9)年9月30日~1935(昭和10)年8月12日、1936(昭和11)年1月7日~8月4日<br>「京城日報」1934(昭和9)年9月~1935(昭和10)年8月、1936(昭和11)年1月10日~8月<br>「神戸新聞」1936(昭和11)年1月5日~8月6日<br>「福日新聞」「北海タイムス」1935(昭和10)年9月~1936(昭和11)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 566,138 字 · 1127 页

青空文庫

――こうしよう、おれは山づたいに、吉水の上人の所へゆくから、そこもとは、岡崎のほうへ走って善信御房に、この仔細を伝えてくれ」

「よしっ……」と、走りかけて、

「では安楽房、お互いにこれ限りいつまた会えるかわからないぞ……。達者に」

「……お身も」

「だが、どこの山野で暮そうとも念仏は捨てまいな」

「捨てない! ……捨てるものか! ……。オオ、そこへもう捕吏らしい影がのぼって来るぞ。さらば――」

四

法勝寺はまたたく間に焼けた。附近の樹木は黒い人骨のように手足を突っ張ったまま立っていた。余燼の煙のかなたから鈍い朝陽はのぼった。

安楽房は、五日ほど、山の中に潜んで草の根を食っていた。

(吉水の上人に――)と、心は焦心るし、

(洛中では、どう噂しているか、同門の人々に、何か迷惑はかかっていないか)と、案じぬいて、どうかして、一刻もはやく山を――と降りる道を窺うのであったが、どの道にも、捕吏の影が立っていて、うかつに里へ出て行ったらたちまち捕われてしまうことはわかりきっていた。

「住蓮は、首尾よく、岡崎の善信御房のところへ行き着いたろうか」そう考えると、彼もじっとしていることは、卑怯に思われてきた。