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しんらん

親鸞

吉川 英治

「名古屋新聞」1934(昭和9)年9月28日~1935(昭和10)年8月9日、1936(昭和11)年1月19日~8月<br>「台湾日日新報 夕刊」1934(昭和9)年9月30日~1935(昭和10)年8月12日、1936(昭和11)年1月7日~8月4日<br>「京城日報」1934(昭和9)年9月~1935(昭和10)年8月、1936(昭和11)年1月10日~8月<br>「神戸新聞」1936(昭和11)年1月5日~8月6日<br>「福日新聞」「北海タイムス」1935(昭和10)年9月~1936(昭和11)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 566,138 字 · 1127 页

青空文庫

奉行の伊賀判官末貞は、

「名を申せ、寺籍をいえっ」と、彼を責めた。僧侶は、大地に坐り直し、

「おれは、鹿ヶ谷の住蓮だ、おれの念仏を停めてみい」といって、それから牢へ打ちこまれても、念仏を唱えていた。

「げっ、住蓮?」捕えてから驚いたことである、奉行は、もろもろへ達して、彼の顔を見知っている者を求めた。その結果、誰のことばも、

「住蓮にちがいございませぬ」と、証明した。

意外な獲物に、奉行の屯は、凱歌をあげた。一方の安楽房もすでに獄舎にいるので、断獄は、即日に決まった。

――不明なのは、依然として、松虫の局と鈴虫の局の行方であったが、そのうち、師走も暮れ、新春の松の内も過ぎたので、いよいよこの二人から先に処刑することになった。

――承元の元年、二月の初旬。

六条河原の小石は、まだ氷が張っていた。暖かい日だったので、加茂の水は雪解ににごっていた。

近衛牢から曳きだされた住蓮と安楽房のふたりは、矢来のそばの杭につながれていたが、やがて時刻が来ると、官の命によって刑刀をうけた獄吏たちの手で、仮借なく、刑場の中央にひき出されて、氷石の座に、筵も敷かず据えられた。