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しんらん

親鸞

吉川 英治

「名古屋新聞」1934(昭和9)年9月28日~1935(昭和10)年8月9日、1936(昭和11)年1月19日~8月<br>「台湾日日新報 夕刊」1934(昭和9)年9月30日~1935(昭和10)年8月12日、1936(昭和11)年1月7日~8月4日<br>「京城日報」1934(昭和9)年9月~1935(昭和10)年8月、1936(昭和11)年1月10日~8月<br>「神戸新聞」1936(昭和11)年1月5日~8月6日<br>「福日新聞」「北海タイムス」1935(昭和10)年9月~1936(昭和11)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 566,138 字 · 1127 页

青空文庫

それだけは、獄吏の情けであったとみえる。二人とも、法衣だけは着ていた。そして、数珠も持っていた。

(遺言は)と刑吏が聞いてやったのであろう、住蓮も安楽房も、

(…………)静かに首を横に振った。

カラカラと矢来の竹の先が寒風にふるえて鳴った、しいんと一瞬天地は灰色に凍っていた。すると一声、安楽房の口から、「南無阿弥陀仏!」はっと、刑吏はあわてて、刀を斜めに振り落した。住蓮も、念仏をとなえた。しかし、二声という間がなかった。見るまに、二箇の死骸から血しおが蚯蚓のように河原を走って、加茂川へひろがった、草も石もみな赤く染めるかと思うほどひろがって行った。

群集はわれを忘れて、

「なむあみだ仏……」もうそれは停めようとしても停まらない声であった。十人や百人が唱えるのではない、あらゆる民衆の口からついて出るのである。獄吏や役人たちは、苦々しい顔をしたが、どうすることもできなかった。

*

「――たいへんでございます、鹿ヶ谷から四里ほど奥の小屋のうちで、若い尼様が二人、自害して死んでおります」猟師の駈け込み訴えに、

「それこそ、松虫と鈴虫の局」役人はすぐ、如意ヶ岳へ分け入った。