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しんらん
親鸞
吉川 英治
「名古屋新聞」1934(昭和9)年9月28日~1935(昭和10)年8月9日、1936(昭和11)年1月19日~8月<br>「台湾日日新報 夕刊」1934(昭和9)年9月30日~1935(昭和10)年8月12日、1936(昭和11)年1月7日~8月4日<br>「京城日報」1934(昭和9)年9月~1935(昭和10)年8月、1936(昭和11)年1月10日~8月<br>「神戸新聞」1936(昭和11)年1月5日~8月6日<br>「福日新聞」「北海タイムス」1935(昭和10)年9月~1936(昭和11)年8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 566,138 字 · 1127 页
「おお、愚禿さまがお出でだ」
「お上人がおいでだぞい」浜の童も、畑の女たちも、彼を見知っていて、彼をとり巻いた。
「きょうは、なんのお話をしようかの」と、親鸞は、畑にも、砂の丘にも、坐りこんだ。
彼の坐るところには、手をあげて呼ばなくても、人が集まってくる。いつのまにか、一家族のような丸い輪になるのだ。
「この間の法話も、もういちどお聞かせしてくらっせ」仏の法話を、漁民も農夫も、聞くのを楽しんだ。なぜならば、親鸞の話は、誰にもよくわかったし、このお上人様は、自分たちへ高僧として臨むのでなく、まるで友達のようになって、親しく、なんでも教えてくれるからであった。
五
妬もちやきの女房も、極道者の亭主も、彼には服した。飢餓や病魔のお化けにとッつかれて多年不幸の底にあった因果な家庭も、そこへ、親鸞の明るい顔が訪ねてゆくと、
(このごろ、おめえちの家は、どうしてそんなに皆が機嫌よく働くようになったのけ?)と、隣り近所がいぶかるほど、打って変って、健康で明るい家族たちの住む家となってしまうのだった。
ある部落では、親鸞のすがたが三日も見えないと、
(ご病気ではないのか)