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しんらん

親鸞

吉川 英治

「名古屋新聞」1934(昭和9)年9月28日~1935(昭和10)年8月9日、1936(昭和11)年1月19日~8月<br>「台湾日日新報 夕刊」1934(昭和9)年9月30日~1935(昭和10)年8月12日、1936(昭和11)年1月7日~8月4日<br>「京城日報」1934(昭和9)年9月~1935(昭和10)年8月、1936(昭和11)年1月10日~8月<br>「神戸新聞」1936(昭和11)年1月5日~8月6日<br>「福日新聞」「北海タイムス」1935(昭和10)年9月~1936(昭和11)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 566,138 字 · 1127 页

青空文庫

頬を一つ、ぴしゃっと打つと、

「打ちましたね」と、田弓も負けずに、良人の胸へむしゃぶりついた。

六

こういう家庭の常として、田弓ももちろん、貞淑な妻ではあり得なかった。多分に、女に多い女のやまいを持っていた。

「ええ、この牝の獣め」と、年景が、こんどは平手を拳にして、もう一つ、頬へ加えると、

「口惜しいっ」田弓は、盲目になって、

「さ、殺しなさい。……さ、もっと、お打ちなさいっ」と、身を押しつけて行った。年景は、もてあまして、

「気ちがいっ」と、罵った。

「気ちがいに、誰がしたんですか、五人も、六人も、眼の前に側女を飼われておいて、気のちがわない妻がありましょうか。それで、一国の代官といわれるんですかっ。領民たちは、あなたを怨んでいますっ」

「な、なんでわしを」

「いいえ、多くの女に贅沢をさせるために、百姓たちの膏血をしぼることは、隣国の国司にまで聞えています。――今にごらんなさい、隣国の兵が攻めてきますから、その時には、自分の領民だと思っている百姓や町人が、皆、あなたに叛旗をひるがえして、この館へ襲せかけてくるでしょう」

「こいつめが! いわしておけば存分な囈言を」