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しんらん

親鸞

吉川 英治

「名古屋新聞」1934(昭和9)年9月28日~1935(昭和10)年8月9日、1936(昭和11)年1月19日~8月<br>「台湾日日新報 夕刊」1934(昭和9)年9月30日~1935(昭和10)年8月12日、1936(昭和11)年1月7日~8月4日<br>「京城日報」1934(昭和9)年9月~1935(昭和10)年8月、1936(昭和11)年1月10日~8月<br>「神戸新聞」1936(昭和11)年1月5日~8月6日<br>「福日新聞」「北海タイムス」1935(昭和10)年9月~1936(昭和11)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 566,138 字 · 1127 页

青空文庫

三

振りかえると、後に残してきた石念を案内にして、月輪家の万野と鈴野の二人はもうそこへ姿を見せている――

彼女たちは、ようやく目的地へ辿りついたと思うと、張りつめていた心が急にゆるんだように、茫然とそこに杖をとめ、

「ああ……」と、息をついて、顔を見あわせていた。

石念は、そうしている二人のすがたを、物珍らしげに眺めていた。彼は都を知らない若僧だった。この北国の山や樹や田舎人しか見ない眼には、眩ゆいように二人のすがたや肌が美しく見えたらしい。――が、はっと気づいて、

「ここが、上人のおいで遊ばす小丸山の御庵室です、さ、どうぞ」というと、万野は建物の様をしみじみとながめて、

「配所と申せば、どのようなひどいお住居かと思うて来ましたが、思いのほかおおきな」

「いやいやここへ移ったのは後のことで、それまでの竹内のお住居は、物乞いの寝小屋のような物でございました」

「お師さまは、ご在室でいらっしゃいましょうか」

「おられまする。……さ、こちらで足をお洗ぎなさいませ」声を聞いて、親鸞は自分の室から縁へ出てきた。二人が流れへ寄って足を洗っている様子をだまって見ていたのである。