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しんらん
親鸞
吉川 英治
「名古屋新聞」1934(昭和9)年9月28日~1935(昭和10)年8月9日、1936(昭和11)年1月19日~8月<br>「台湾日日新報 夕刊」1934(昭和9)年9月30日~1935(昭和10)年8月12日、1936(昭和11)年1月7日~8月4日<br>「京城日報」1934(昭和9)年9月~1935(昭和10)年8月、1936(昭和11)年1月10日~8月<br>「神戸新聞」1936(昭和11)年1月5日~8月6日<br>「福日新聞」「北海タイムス」1935(昭和10)年9月~1936(昭和11)年8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 566,138 字 · 1127 页
五
筧の水の音がどこかでして、鈴野も親鸞も、そこになく、彼一人が独りで口走っているかのように静かであった。
「――後でよく考えて見ますと、その光というのは、鈴野どのの部屋の窓が隙いていたので、夜明けの光が射し込んでいただけのことだったのです。……けれど夜もすがら、熱病のように悶々としていた私は、夜が明けていたとも考えておりません。真っ暗な部屋の中とばかり思っていた眸を、不意に、怖ろしい光明で射られたので、そのまま、うッ伏してしまうと、思わず、念仏をさけんでしまいました。次には、しまったと思う悔いと涙とでうろたえながら、逃げ出しました。身の置きどころもないように」
「…………」
「どうぞ、お師さま、私を今日かぎり、破門して下さいませ、私は、外道に落ちました、改めて修行をし直した上、ふたたびお膝下へお詫びしに参ります」親鸞は瞑目していた眸をうすく開いて、そういう石念のすがたを愛し子のように見入った、彼はまだ道念の至らないこの若僧の悔いに打ちのめされて慚愧している有様を見ると、あだかも二十歳だいのころの自分を見ているような気がするのであった。
「石念」
「は……はい」