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しんらん
親鸞
吉川 英治
「名古屋新聞」1934(昭和9)年9月28日~1935(昭和10)年8月9日、1936(昭和11)年1月19日~8月<br>「台湾日日新報 夕刊」1934(昭和9)年9月30日~1935(昭和10)年8月12日、1936(昭和11)年1月7日~8月4日<br>「京城日報」1934(昭和9)年9月~1935(昭和10)年8月、1936(昭和11)年1月10日~8月<br>「神戸新聞」1936(昭和11)年1月5日~8月6日<br>「福日新聞」「北海タイムス」1935(昭和10)年9月~1936(昭和11)年8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 566,138 字 · 1127 页
「無自覚の四十年五十年は夢中の一瞬です。おん眼をひらかせ給わば、一年も百年千年の生き心地を覚え給うに相違ない。何日なとご発心はおそくはない。ようこそ来るべきところへ参られた、いでこの上は親鸞が、ご仏縁の仲だちをお授け申しあぐるであろう」
その夜すぐ、親鸞は彼のために剃刀を取った。そして、法善房光実という名を選んで授けた。
四
「どうじゃ盛綱どの……いや光実御房。生れかわった気がするじゃろうが」四、五日たって、西仏は新しくここに加わった佐々木三郎盛綱の光実にこう話しかけた。
「ありがたい、ただありがたさで、今は胸がいっぱいだ」と、光実は心からいった。
「どうして今までおれは、あんな絆に惑ったり悶えたりしていたのか、ふしぎでならない」
「そこが、俗世間だ、濁流の中に住んでいるうちは、濁流から出る道もわからない」
「そればかりか、上人から聞かされる一語一語が、いままで、鎌倉の将軍家から貰った武功の恩賞より身に沁みてうれしい。――頼朝がおれに与えたものは、皆自己のわけ前であり、自己のため以外のものでなかった。――然るに上人は何もご自身に求めるのではない、あのお眸に映るすべての者を、ひとしく倖せにしてやろうというほかに、他意はない。