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みなもとよりとも
源頼朝
吉川 英治
「朝日新聞」1940(昭和15)年1月~10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 306,118 字 · 613 页
二
「は、は、は。ははは」
話し相手は、主の大蔵卿であった。笑いが止まらないといったように笑う。
吉次は、口をつぐんだ。――もう話してもばからしいという顔つきで。
葛布の小袴に、縹色の小直垂、道中用の野太刀一腰、次の間においているだけだった。いくら黄金の力を内心誇ってみていても、都の貴人の前へ出ては、みちのくの一商人としか見られないのが、業腹でならなかった。
二
怒れない。怒ったら商人は損と極まったものだ。――が、そう自分にいい聞かせなくても、吉次はその道の老巧だった。公卿や武将を相手に、その玩具になり、馬鹿になることの名人だった。
「――馬が仔を産みましてな、いやこんどの道中で」
いきなり途方もない事を云い出して、ひとりで、へらへら笑いだした。
「馬の仔を、ご覧になったことがございますか。産れるとすぐ、歩き出しますんで。――どうして、可愛い奴ですよ」
「何をいうかと思えば、馬の仔のはなしか。やくたいもない」
一条朝成は欠伸をして、
「長談義、ちと飽いた。――用がなくば、また来い。まだ当分は、都に逗留であろう」
「はい、こんども、夏ぐち頃までは……」
「商いか」
「左様で。