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みなもとよりとも
源頼朝
吉川 英治
「朝日新聞」1940(昭和15)年1月~10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 306,118 字 · 613 页
……時に、過日おねがいのご用命は、いかがでございましょう」
「ああ、六波羅殿のご普請のことか」
「それもございますし、小松殿におかれましても、伽藍のご建立があるそうで。――何かと、金沙、金泥、金箔など、たくさんにお要用でございましょうが」
「あるにはあろう」
「お口添えで、この吉次に、ご用命がねがえれば、こちらのお館へも莫大なお礼物をお頒けすることができますがな」
ここで吉次は幾ぶん胸の鬱をはらした。見まわせば、いかにも貧しそうだ。豊かな公卿というものは尠ないが、わけてここの邸には、坐っていても貧乏のにおいがする。
見を飾る出仕の牛車にしてからが、さっき上がりがけに見たところでは、五年も塗更えてない貧乏車で、牛部屋の牛は痩せている。主の粗服は、廂のやぶれと同じ程度の古さである。
「さ。……御所のご用品なれば儂たちの係りだから、どうなとなるが、六波羅殿には、何のご縁もなし、わけて黄金商人の執りもちなどしたら、他の商人から怨まれもするし、世間の口もうるさかろう」
「いやいや。――他様なら知らぬことですが、こちらのお館と、六波羅様との間がらなら」
「なんでそのように親密じゃというのか」