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みなもとよりとも

源頼朝

吉川 英治

「朝日新聞」1940(昭和15)年1月~10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 306,118 字 · 613 页

青空文庫

五

この吉次だって、商法の上では平家様々だが、血を洗えば、源氏の氏子の端くれですよ。今夜あ一つ、ほんとの事を相談しようじゃありませんか」

「何をいう!」

と、かえって鋭く、

「さっきから黙って聞いておれば、悩みを解く説法を乞いたいの、金儲けの相談をしようのと……。僧のわしへ向って、おまえは揶揄うのか、肚でもさぐる気か」

「いいじゃありませんか、金儲けは商人の吉次がするんです。あなたは貴方の望みを遂げればよろしいでしょう」

「わしの望みは、仏弟子になりきる事だ。おまえなどとは、行く道があべこべだ」

「いいや、同じでしょ。……あなたも、平家の世を覆したいんでございましょ」

「な、なんだと」

「それでなくて、何でお前さん、常磐御前から頼まれたり、鞍馬の天狗と密会したり、知れたらすぐ首の飛ぶような危ない事を、僧侶の身でなさるんですかねえ。……いけませんよ、吉次だったからよかったが、あんな謀叛を、河原で話し込んでいちゃあ」

「…………」

「それに、近頃のうわさがまた、どうも変だと思いましたよ。奥州だって見た事もねえ天狗様が都のほとりの鞍馬にはたびたび出るっていう評判だ。奥州者といえば、熊襲だのえびすだのと、仰っしゃる都会人が、天狗を真にうけているんだから恐れ入っちまう」