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みなもとよりとも

源頼朝

吉川 英治

「朝日新聞」1940(昭和15)年1月~10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 306,118 字 · 613 页

青空文庫

しかし、日陰の蔓は、陽なたへ伸びようとする夢に燃えている。悲嘆や慷慨は、もう遠い過去のことだ。闇の生活も十年の余となれば、自らそこに生きてゆく道もつき、同じ境遇の人々と連絡もとれ、さらに逆境なればこそ抱き得る、逞しい闘志とそして希望があった。

「……来たらしい」

三郎が囁く。

金王丸も眼を向ける。

向う側の沢の闇から、渓流の星の下へ、猿の群れみたいに連れ立った人影が、岩づたいに、水を跳んで渡ってくる。

三人――四人――七人と。

多くは土民の姿で、武士も交じっているが、樵夫か猟師かと見えるのが多い。山法師ていの男もいる。

「遅うなりました」

「根井、荻野など両三名、後より参る由でござります」

先に来ている二人を繞って、大磐石のうえに車座となり、なおそこらの岩へ思い思いに腰をかけた。

「こよいのお迎えには、誰が参っておりますか」

一人が問うと、三郎正近が、

「自分の参る番であったが、渋谷殿を誘うて来た道の都合で、箱田の冠者に行ってもろうた。もうやがてお連れして見えるだろう」

と云う。

その人を待つもののように、人々は雑談に耽っていた。何を云おうとここの天地では憚る事はなかったが、肩をいからして大言壮語する者はない。