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みなもとよりとも

源頼朝

吉川 英治

「朝日新聞」1940(昭和15)年1月~10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 306,118 字 · 613 页

青空文庫

世間

一

世間

一

夜が明けると、その家の主らしいのが、炉にくべる薪を薪納屋へ取りに来て、非常な愕きに打たれた顔した。

「嬶。ちょっと来てみい。……いそいで。いそいで」

彼の妻も、厨から出て来て、主と共に首をならべて、そこをさし覗くと、息も止ったように眼をみはった。

薪の間に臥していた頼朝は、夜明けも知らず睡っていた。破れ廂の氷柱越しに、朝の光がその寝顔にさしていた。

白に彫った仏像みたいにその寝顔は気品にかがやいていた。やや面長で下膨れの豊かな相形である。何の屈託もないような鼾すら聞かれた。

「どこの童であろ? ……。何処から来て、こんな所へ」

ため息つくように、やがて主がつぶやくと、妻は、彼の耳へ口をよせて、猫や鳥にも憚るようにそっと云った。

「落人の子じゃろうが」

主は恟っと思い当った顔をした。黙ってうなずくと、足のつま先で歩むように、そこを離れて、妻に計った。

「どうしよう」

「訴えて出なされ」

「かあいそうじゃ」

「そんな事を云うたとて、きのうも何度、平家のお侍衆が、触れて来たことか。匿うたなどと疑われてみさっしゃれ、それこそ……」

「いや、不愍じゃ。わし達の仲にもあの年頃の子があるに」