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みなもとよりとも

源頼朝

吉川 英治

「朝日新聞」1940(昭和15)年1月~10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 306,118 字 · 613 页

青空文庫

三

わしにつれて異母兄頼朝も迷惑なさろうし、源氏の侍たちの弱みにもなる。――だから嫌だ」

「そんな事はありません」

「あるよ」

と、肯かないのである。そして牛若は、なおも云った。

「それとまた、秀衡だって、どんな人物か、善悪も知れない人じゃないか。身は寄せても、烏帽子親など、頼まいでもいい。――わしの元服奉行は、熱田の宮の神主さんと決めた。そちが来ないならわし一人で行く」

牛若は、馬の背へ移ると、またも彼にかまわず、道を急ぎ出すのだった。

吉次はもう、謝った――と呶鳴りたくなった。後を追い追い、彼の機嫌をとるほかなかった。

宿場で、吉次も馬を雇い、日を重ねて熱田へ入った。――そこへ着くと、すぐ牛若は宮の森へ駒をつないで、真っ直ぐに、夏木立の神さびた奥へ進んで行った。

三

牛若は拝殿の下に立って、掌を打鳴らした。いつまでも、合せた掌を胸にあてて祈念していた。

吉次もうしろで、ぽんぽんと柏手を打った。音はいいが拝む真似事に過ぎない。胸に風を入れて、

「こいつは涼しい」

と、つぶやいた。

「吉次」

「はい」

「社家はどこであろ?」

「さあ、どこでしょう」

「元服いたすには、禰宜どのに頼まねばならぬが、社家へ申し入れて来い」