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みなもとよりとも

源頼朝

吉川 英治

「朝日新聞」1940(昭和15)年1月~10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 306,118 字 · 613 页

青空文庫

「さてこそ、あなた様は」

と頼朝の面をしげしげ見直し、苞入りの刀を彼の手へもどすと、名も告げずに立去ってしまった。

それまで、鵜匠の肚を、疑いぶかく警戒していた頼朝は、非常にすまない顔して、

「……あ。世尊がいた」

と、つぶやいた。

やがて、大炊の門を訪れてみると、門は閉じてあって、喪中の忌札らしいものが貼ってある。裏の土塀口を押入って、召使の者に、

「義朝の子、右兵衛佐ですが、父君は在すでしょうか」

と、たずねると、やがて奥まった屋の内から、

「あな」

とばかり転び出て来て、彼の手を取り、足を洗ぎ、抱えるばかりにして家の内へ入れてくれた女性がある。

大炊の娘、延寿であった。

「おいたわしい」

と、彼女は涙にくれていたが、頼朝はこの女性が父の何であるかもよく弁えていないし、事実、そんなに悲しくなかったので、彼は涙もこぼさなかった。

けれど、その後で、

「お父君には、ここを去って、尾張の方へ落ちのび給い、正月三日というに、長田忠致に計られて、敢なくお討たれ遊ばしたのみか、その御首は、都へ送られ、平家の者の手にかかって、都の東獄の門前にある樗の木に梟けられました」