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みなもとよりとも

源頼朝

吉川 英治

「朝日新聞」1940(昭和15)年1月~10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 306,118 字 · 613 页

青空文庫

四

「亀どの、そこの料紙と硯とをこれへ」

縁に腰かけたまま、頼朝は一筆書いて、封の上に、北条どの御内とし、政子の君へと宛名した。

亀の前は、ちらと、その名宛を見たような顔いろであったが、頼朝から、

「定綱を呼べ」

と云われて、素直に、侍部屋のほうへ立って行った。

四

兄の定綱が、主人のりんどう黒に乗って、あわただしく、配所から出て行く様子に、外にいた三郎盛綱は、

「兄者人どこへ?」

と、声をかけた。

「北条どのまで」

定綱は鞭打って、急いで行った。

政子に宛てた文を携えて、彼はまもなく北条家の館を訪れていた。元より先は深窓の息女である。直かに会えるわけもない。家臣の手を通じて返辞を待っていた。

「これをとのお伝えです」

家臣は政子の返し文と共に、唐綾の小袖一かさねと、唐鏡一面を定綱に渡した。

定綱は、それを持って、また急いで配所へ帰って来た。

頼朝は、政子の文を読むと、すぐ細かに裂いてしまった。そして外にいる盛綱を呼びよせ、

「この二品を、馬の代に、市の雑人どもへ渡してやれ」

と、云った。

「いや、その伯楽どもは、もう外におりません。兄者人が、北条殿へと、馬を打って駈けたのを見て、さては役人でも連れて来る事かと思い、ちりぢりに逃げ去りました」