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みなもとよりとも
源頼朝
吉川 英治
「朝日新聞」1940(昭和15)年1月~10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 306,118 字 · 613 页
七
宗時の胸には、もっと大きな時代の波が打っていた。それへ乗り出そうとする壮図の纜が、まだ岸から解かれずに、ただ張りつめていたのであった。
七
大日堂は、御所之内の丘にあった。時政の父時家の代に、守山の願成就院から、ここの園内へ移したものである。
何か、重大な考え事でもあると時政はよくここへ黙想に来る。ここに立てば、父祖の遺業の地は一望に見られる。また、大日の像を拝すれば、物事に当って、すぐ赫怒し易い自分の短所が、
――そうではないぞ。
と、宥められる心地がする。
「お父様。お召でございましたか」
そこへ登って来た政子が、自分の前にあるのも知らずに、彼は、御堂のぬれ縁に腰かけたまま、拱いて俯向いていた。
「……オオ」
と、時政は、充血した顔をあげた。素直なむすめのやや恟々している眸を見ると、彼は可憐しくもなって、
「政子か。ここへかけるがよい。……何、べつにこれまで呼ぶ程の用でもないが、誰もおらぬ所のほうが、其女もよかろうと思うてな」
「何か、わたくしへ、お訊ね事でも……?」
「嫁入りのことだが」
「……はい」
政子は父の下へ、そっと腰かけて、足もとの散り紅葉を見ていた。