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みなもとよりとも

源頼朝

吉川 英治

「朝日新聞」1940(昭和15)年1月~10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 306,118 字 · 613 页

青空文庫

「山木兼隆を知っておろうが。目代の山木判官を」

「ぞんじ上げておりまする」

「ひとかどの男だ。六波羅のお覚えも至極よい。従って将来にも富む人物と見こんで、其女をつかわす事にした。異存はなかろうな」

「…………」

「なかろうな」

時政の眼には、親の威と、愛情とが、矛盾したまま、ぎらぎらしていた。むりやりにでも、自分の意志に靡かせてしまおうとする男親の姿が、時経つほど、逞しく見えて来た。

「返辞は……どうじゃな……。父の眼をもって選ぶむすめの良人、末悪しかれと祈るわけはない。……嫌ではあるまいな」

「…………」

「異存があるか」

「……ありません」

吐息と共に、政子は云った。声は微かであった。蒼白に近い面をあげて見せた。時政は反対に、その瞬間、慈父の顔を他愛なくくずして、

「お。嫁くか」

と、声を弾ませ、

「それで、わしも、ほっといたした。嫁いでくれるか」

「仰せつけならば」

「よう、得心してくれた。そなたも妙齢。いや後の二妹を嫁入らせるにも、先ず、そなたから先に定まらねばなるまいし」

「その事も、悩んでおりました。……ついては、おねがいがございます」

「むむ。何か」

時政は、膝をすすめた。