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みなもとよりとも
源頼朝
吉川 英治
「朝日新聞」1940(昭和15)年1月~10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 306,118 字 · 613 页
四
輿は間もなくそこへ着く。迎えの灯と、列の灯とが合流して、目代邸のほうへ押流れた。寺でも神社でも、篝を焚いていた。どこかで、鈴や笛や鉦鼓などの楽が遠く聞えていた。わいわいという人声、人影に、輿の中の花嫁は、眩暈を覚えそうなここちであった。
後から急いだ父の時政や一族たちの騎馬も、同時に、山木家の門前に着いたのであった。
四
岩石の露出した木の少ない山である。石山の多いのは伊豆の特徴でもある。そうした低い山が、幾つも田野から突兀と聳えている。
「――通る、通る」
「あの松明の列」
「ご息女の御輿だ……」
岩山の岩かどに這いつくばっていた物見の兵が云い合った。二、三人がからからと後ろの谷間へ降りてゆく。
七、八十の兵が、夕方から小雨にぬれたまま、岩の陰や木の下に、じっと、屯していた。
「宗時様っ。宗時様」
物見の者の声に、
「おう」
と、どこかで答えがする。
篝もないし、星もない雨夜なので、ほとんど、声をたよりに、
「どちらにおいでなされますか」
「ここだ、ここだ。杉の木の下におる」
「オ……。ただ今、政子様のお輿と、供の列が、山之木郷へ着きました」
「着いたか」
「すぐ目代邸へお入り遊ばしたように見られます」