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みなもとよりとも

源頼朝

吉川 英治

「朝日新聞」1940(昭和15)年1月~10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 306,118 字 · 613 页

青空文庫

と、昔からの口ぐせで自然、誡える口調になるのだった。

「女子ほど、弱いものはありませぬ。弓矢を取る男子ですら、今の世に生きて、敵の中に立ってゆくのは、生やさしいものではないに、女子の身に、怖ろしい敵を作られ、身を隠さねば、お生命も危ぶまれるような事になって――どうして、案じもせず貴女を見ておられましょうぞ」

「だいじょうぶです」

「どうして大丈夫ですか」

「兄の宗時が、よそながら護っていてくれます。兄の友達どもも、今ですから申しますが、私を庇うてくれて、この後とも、兄と力を協せてくれる約束ですから」

「相手は誰と思いますか」

悲しみをこえて、尼は、叱るような声になった。

「六波羅の目代でござりますぞ。それに弓をひいたら、天下を敵としなければなりません」

「そうです」

「……そうですとな?」

尼は、疑うように、姫の顔を見すえていた。その眼へかすかな顫きが上ってくる。

政子は、もうこの世捨人の尼とはなしているのは退屈であった。山は青葉時、海も飽くまで青い、肺のなかまで青嵐に染まりそうな心地を、独りぽつねんと楽しんでいたかった。――やがて、事実となって来るものへ、静かに前後の考えを纏めておきたかった。