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みなもとよりとも

源頼朝

吉川 英治

「朝日新聞」1940(昭和15)年1月~10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 306,118 字 · 613 页

青空文庫

「誰か、この浄地に女を隠している者があるのではないか」

などと、他人の秘密でも嗅ぎ知ったように、急に声をひそめ合うのだった。

「――見て来ましょう」

すると。隅の方からやがて立って行く一人があった。痩せた影法師が壁にうごいて、廻廊へ出て行きかけた。

「光厳。おい光厳」

室内から呼び返されて、

「はい」

光厳は、顔と半身を見せた。

いつも病身らしく黙りこくって、灰のように無口でいる若い堂衆である。年もまだ十七、八歳でしかないので、古顔の学生たちはすぐからかった。

「おまえ、見届けに行くのか」

「はい」

「何だって、急にそわそわして、見に行くのだ」

「でも、気になりますから」

「さては、子連れの女を、寺内に匿っているのは、お前だな」

「…………」

光厳の顔いろが青くなったように思われた。

けれど、とたんに大勢の学生たちが、声をそろえて笑ったので、

「いいえ、滅相もない事を」

と、真面目に云い訳する光厳の初心らしさを、よけいおかしがるのみで、その顔いろを怪しむ者もなかった。

嬰児の声は、間もなく聞えなくなってしまった。そして見届けに行った光厳も、やがてすぐ帰って来て、

「何でもありません」