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みなもとよりとも

源頼朝

吉川 英治

「朝日新聞」1940(昭和15)年1月~10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 306,118 字 · 613 页

青空文庫

二

(否とよ。不遇は覚悟のまえである。死ぬ以上生きるは辛いと知る身に、何の待つものがあろう)

と、ひとり答えていた。

けれど遉に、

(若い仲綱や兼綱や、またわれに従う家の子等は、不愍なものだ)

と、息子や郎党たちが、共に肩身を狭く世間の端に住んでいるのを、憐れまずにいられなかった。

恩爵はおろか、邸宅も扶持も、むかしのままだ。入道相国をはじめ平家一門が、その端くれに至るまで、爵位官職を私して、全盛の余沢に驕り、なおまだこの世に不平をさがしている中にも、頼政だけは、忘れられていた。近衛河原の古邸にただ一軒、置き残されたままだった。

稀、思い出されても、

(裏切者のよい見せしめ)

とのみで、栄華の閥は一顧も与えなかった。そして平家人の頭には、何年たっても、

(彼は源家の人間だ)

という観念も除かれなかった。

それくらいだから、長年、禁門の衛府にありながら、彼のみは、昇殿もゆるされなかった。

若年から御所の衛りに立つ弓取の身として、それだけは頼政も、痛恨事としていたとみえて、ある時、殿上の人に、所懐の和歌をそっと示したところ、帝のお耳にはいって、

――あわれな心根、昇殿をゆるしてやれ。