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みなもとよりとも

源頼朝

吉川 英治

「朝日新聞」1940(昭和15)年1月~10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 306,118 字 · 613 页

青空文庫

一族を裏切った。

けれど、それは武門の道を踏み違えた事にはならない。たとえ一族へ弓をひいても、国家の大本へひく弓ではないからである。

義朝を始め一門の不覚は、源氏の興亡にばかり武者ぶるいして、国家の大本に思いを怠っていた事にある。敗北の因もそれと云ってよい。

清盛はそうでなかった。――晩年の行状とは人がちがっているような頭脳だった。――彼は、都の乱と聞くと、熊野の途中から引き返し、わずか五十騎ばかりで六波羅の邸に入ると、すぐ計略をめぐらして、兵乱の中から上皇と天皇の御輦を自分のほうへお迎えし奉って、その上で戦を開始した。

――何であの時、引く弓があろう。源氏といい平氏というも、私名である。ほんとの弓取の立つところは、私名の中にはない筈だ。

「自分は天地に恥じない」

頼政は、今も、そう思いながら、二十年、無言を通して来たその唇をかむのであった。

二

世の人々はまた。

(――彼が平家に随身したのは、平家の栄華に随身したのである。節義を売ったものだ。さもしい武将ではある)

という見方から今にも頼政が恩爵にあずかるであろうと、平治の乱後、清盛以下の六波羅一門が、爛漫と咲き華やぐ栄進ぶりと共に、彼へのご沙汰をも注目していたものだったが、頼政は心のうちで、