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みなもとよりとも
源頼朝
吉川 英治
「朝日新聞」1940(昭和15)年1月~10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 306,118 字 · 613 页
三
と呼ばせるところまで持って来てしまった。しかし頼政から見ると彼をそこまで有頂天にさせたのも、一半の罪は、非難する世間にあると考えられるのであった。――で、かつては自分に寄せられた一片の気の毒さを、今では頼政から入道へ思い遣っている程であった。
三
裏門の戸をたたいて、
「ご子息の仲綱殿にお目にかかりたいが、おられますか」
と訪れた色の黒い――顔半分髯に埋めている山伏があった。
日陰日なたのそこらの地上に、毛虫が這っていた。――耳をすますと、頼政の咳きが、庭木の奥の古い棟から聞えてくるほど、そこと母屋は近かった。
「誰だ?」
小舎人が中で腰をのばした。紅い桜の実を烏帽子のなかへ拾っているのだった。
「新宮の山伏が、祈祷に参じたと仰っしゃってくれれば分るが」
「ここは、入口ではありません。ご当家にだって、表門はちゃんとある。あちらへ行って、訪うたがよい」
「いや、厩門を入って、南の空地に向いている小門を叩けと仰っしゃった。その門はここであろう」
「誰が仰っしゃった?」
「仲綱殿が、お手紙の中に仰っしゃった」
「あ。では新宮から、わざわざお招きした山伏どのか。……では大殿のご病気のお加持にでも」