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みなもとよりとも

源頼朝

吉川 英治

「朝日新聞」1940(昭和15)年1月~10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 306,118 字 · 613 页

青空文庫

七

殿っッ」

突然であった。

跫音も、ここの部屋までは来ない間にである。

「狼藉者が」

「夜討っ、夜討っ」

あわただしく聞えて来た。

うつらうつら眠っていた山木兼隆が、愕と、首をもたげて、

「何っ?」

と、酔眼をみはって見廻したとたんに、廂の上を、しゅるしゅるッと、力のない外れ矢の這う音がした。

「――あっ」

跳び起きて、うしろへ、

「長刀。長刀」

早口に呼んだが、侍女はもういなかった。逃げ転びながら、兼隆の足もとで、きゃッと悲鳴を立てたが、兼隆の耳は、もうその声にもうつろであった。

びゅんっ――

どこかで旺んな矢うなりがする。ここへも姿を見せない郎党たちが、はや射返しているのだなと知ると、兼隆は、一族の上にありまた、六波羅の目代という職にある自分の重責を胸によび起していた。

同時に、

「ぬかった」

と、悔いもし、その悔いに、総毛立つような怒りに燃えた。

「遂に、自暴自棄となった流人めが、あぶれ者を語らって襲せて来たか」

そう思った。――その程度にしか、この咄嗟、この事態にぶつかっても、彼には判断されなかったのである。

政子を奪われた事件でも、兼隆が胸をなでて、あのまま紛争の表面化するのを避けていたのは、