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みなもとよりとも

源頼朝

吉川 英治

「朝日新聞」1940(昭和15)年1月~10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 306,118 字 · 613 页

青空文庫

もちろん馬は勢いよく前へのめり込み、鞍上の武将は、石ころの上へもんどり打った。

「得たりっ」

と、頼朝が、その上へ、一撃加えようとすると、彼の郎党は、

「佐殿っ、助けて下さいっ。――それも私の主人ですっ」

と叫びながら、頼朝の体を突き飛ばし――そしてすぐ頼朝を扶け起して、遮二無二、椙山谷の方へ向って逃げ出した。

「誰だっ?」

「後で。後でいいます」

「敵か」

「敵ではありません」

「味方か」

「お味方でもありません」

「では。……何者だ」

「迷っている人間です。――たった今までは、大庭三郎景親様の家人でしたが」

「あっ、飯田五郎か」

「そうです」

「五郎か」

「……そうです」

足を止めて、頼朝は、自分の体を扶けている男の顔を見た。たった一度、大庭景親の兄景義に伴われて、配所に来たことがある。また志を共にする若人の会合でも顔を一、二度見たことがある。あれは臭い、怪しい男だと、人々が注意したので、景義もそれきり伴れて来なくなった男であった。

二

「前々から、心ではお慕い申しておりましたが、主人や妻子を捨ててまで、御旗の下へ奔る気にもなれず、きょうの戦いにも、平家方の陣におりましたが、深く考えてみると、折角のお旗挙げが、ここで挫折したら、腐ったままの世の中が、まだ十年も二十年も続いてゆきましょう。