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みなもとよりとも

源頼朝

吉川 英治

「朝日新聞」1940(昭和15)年1月~10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 306,118 字 · 613 页

青空文庫

「安房におられまする」

「安房とは、およそ世間も観ているが……安房のどこに」

「安西三郎景益どのの計らいで、そこの邸に近い寺院を隠れ家に」

「ウム。北条どのは」

「ご一緒です」

「そうか、それ伺って安心いたしました」

「実は、この度も殿のご密書を帯びて使いに来たわけでござるが」

「それは」

と、抑えて、

「後で悠々伺おう。――何よりもお詫びせねばならぬ事は、去年、ことしの春と、二度までも、令旨のお沙汰と共に、佐殿の召状にも接しながら、何のご返事も回さなかったわれらの無礼のかどです。……お察しください」

「いや、その辺のご事情は、よく分っておりまする。……千葉ご一族にとっても重大な分れ目でござる。ましてや、あなた様や胤正様の上にも、お父上常胤様という者がおありなのですから、左様に、手軽く向背を決めるわけに参らぬのも、決してご無理とは存じません」

二人の影は、寺院の登り口でもあるような、森の木蔭と青苔に蔽われた石段を踏んでいた。

三

「とにかく、会うだけでも、お会いになって下さい」

胤正、胤頼の兄弟は、結束して父にせがんだ。――議論もし、情にも訴え、口を極めて頼んだ。

「それ程に申すならば」