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みなもとよりとも
源頼朝
吉川 英治
「朝日新聞」1940(昭和15)年1月~10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 306,118 字 · 613 页
――鎌倉へ!
次第に全軍の足なみは大きくなった。そして、武総の堺、隅田川河原まで来た頃は、その河原で、待ち合せていた者や、海のほうから船で遡って来る人数もあったりし、一躍、二千余騎の軍隊となった。
その夜は、河原に陣して、思うさま、人々は、秋の夜空をながめた。
河幅は怖ろしく広かったが、水は渡渉できる程だった。数日、残暑の汗によごれた肌着など洗う兵もあり、魚を漁って、篝で焼いて喰っている仲間もある。
――が、こよいにも、武総の地にある平家が、いつ夜襲して来ないとも限らない。水が蕭々として夜更けを告げるほど、歩哨の兵は眼を光らしていた。
すると、隅田の宿の先まで、物見に出ていた兵の二、三騎が、
「おういっ」
何事かあったように、鞭を上げて、此方へ駈けて来た。
三
「大軍が来るぞ」
河原で馬を降りながら、物見の兵は、そこらに立っている歩哨へ云った。
「なにっ、敵かっ」
と愕く声へ、答えもせずに、その影はあたふたと、土肥次郎実平の宿営へ駈けこんだ。
実平が、時政を訪れ、時政が常胤を起し、中軍の篝は俄に明々と火の音をはぜ、頼朝の座右には、すでに諸将のすがたが詰め合っていた。