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みなもとよりとも
源頼朝
吉川 英治
「朝日新聞」1940(昭和15)年1月~10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 306,118 字 · 613 页
五
五
二度、三度まで、取次の役目に立った者は、広常と頼朝のあいだを往復したが、頼朝の怒りは依然解けなかった。
三度目には、余り気の毒と思ったか、取次の者と共に、土肥実平も出て来て、
「きょうは一先ずお引取あって、他日、再度ご見参に出られては如何でござる。その間に、われわれよりも、ご気色を窺って、よくお取做しいたして置きましょう程に」
と、慰めた。
しかし、広常もまた、辛抱づよく、これほどまでに叱られながら、なおも、大地に坐ったまま起とうともしなかった。
「いやいや、佐殿のお怒りは重々ご理由のあることでござる。大事な西上のご発向に、馳せ遅れ申したは、広常が一代の不覚と、慚愧にたえませぬ。一たんここを起っては、殿のお憤りに対し、たとえ一時でも、広常が不平を抱いて去ったかと思わるる惧れもござれば、殿のお怒りが解くるまでは、ここに坐して、謹慎しておる所存でござる。どうぞ眼の外にお置き下されい」
いつか陽は高くなる。
馬には糧を飼い、兵は朝の兵站に忙しない。
対岸から伝令が来る。
また、一群れの騎馬が渉って来る。
それらも皆、江戸、河越、甲府、秩父などの諸地へ行った使者の戻りや、或いは、その返書を齎して来る先方の使いなどであった。