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みなもとよりとも
源頼朝
吉川 英治
「朝日新聞」1940(昭和15)年1月~10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 306,118 字 · 613 页
「な、なんだっ、千にも足らぬ小勢を引いて――。伊豆に敗れ、辛くも安房にのがれて、ようやく千葉が組したので、形ばかりの軍勢となったまでの佐殿ではないか。――ちと、慢じているっ。さ、さっ、広常殿、戻りましょう」
同じ年配に近い同族の老人さえこう云って歯がみをすると、なおさら、子息や孫の若武者輩は、もう敵として立つ決意さえ眸に研ぎたてて、
「佐殿が何じゃッ。今の大声を聞けば、思い上がった阿呆に近い。あんな大将に、何で大事がなろう。こんな陣門へ礼を執って来ただに口惜しい限りじゃわッ。――さっ、引っ返そう! お祖父様」
「父上っ」
と、動かぬ広常の体へ寄り集まって、無理にでも、引き戻そうとした。
「…………」
が。広常は動かない。
そのうちにまた、頼朝の座所から前にも増して烈しい声がながれて来た。
「――ならぬっ。いらざる取做しをいたすなっ。追い返せと申すに!」
広常の身をつつんでいた一族の輩は、その声を洩れ聞くと、くわっとなって、
「うぬっ」
一斉に、陣刀のつかを掴んだ。
「何をするっ。推参な」
広常は、叱りつけると、どう考えたか、それへ坐って、両手をつかえないばかり身を慎んで見せた。